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東京地方裁判所八王子支部 昭和54年(ワ)526号 判決

原告 中央信用金庫

被告 国 ほか二名

代理人 布村重成 池田春幸 ほか二名

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事  実〈省略〉

理由

<証拠略>によれば、当事者間に争いのない事実を含み、次の事実を認めることができる。

訴外原田電気設備株式会社所有の別紙物件目録記載の各不動産(以下本件不動産という)につき、訴外商工組合中央金庫及び同振興信用組合の申立により昭和五三年五月一七日東京地方裁判所八王子支部において任意競売手続(同年(ケ)第一三四号)が開始された。原告は原田電気設備株式会社との間において、昭和五二年一二月一日本件不動産につき極度額金一〇〇〇万円の根抵当権設定契約を締結し、同年同月六日根抵当権設定仮登記を経由した。被告株式会社中矢組は、原告の右仮登記に先立ち、昭和五二年一一月二四日東京地方裁判所八王子支部において、本件不動産のうちの(一)、(三)及び(四)の不動産に対し、債権額金一五七二万一〇七五円をもつて仮差押決定を受け、同年同月二六日仮差押登記を経由した。本件競売事件における被告株式会社中矢組の請求債権は右仮差押にかかる債権と同一である。右競売事件において被告国(所管庁青梅税務署長)は原田電気設備株式会社に対する昭和五二年度源泉所得税につき、被告昭島市は同会社に対する昭和五三年度固定資産税、都市計画税につきそれぞれ交付要求の申立をなし、配当期日である昭和五四年五月八日現在における債権額は、前者につき金四万六三五〇円、後者につき金六万六八四〇円であつた。右競売事件において本件不動産は昭和五三年九月二七日競落され、売得金につき別紙のとおりの配当表が作成された。右配当表において、本件不動産のうち(二)の不動産の売得金のうち金六一万四八一四円が原告に対する配当金として計上されたが、(一)、(三)及び(四)の不動産の売得金に関しては、原告に対する配当金は計上されなかつた。昭和五四年五月八日の配当期日において、原告は右配当表中、被告国に交付されるべき金四万六三五〇円のうちの金二万三一〇〇円、被告昭島市に交付されるべき金六万六八四〇円全額、被告株式会社中矢組に配当されるべき金二九八万五一〇六円及び金一三六万七〇八七円全額につき、それぞれ異議を述べた。

およそ以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そこで原告主張の異議事由について検討する。原告の異議事由の要旨は、原告は仮登記にかかる根抵当権者であるので、本件競売事件において配当要求をするまでもなく、当然売得金のうちからその優先順位と債権額に応じて配当を受ける権利があるのみならず、原告の根抵当権は、これに先立つて仮差押の登記をなした被告株式会社中矢組には対抗できないため、同被告との間では平等の債権者としての取扱いを受けてもやむを得ないが、被告国及び被告昭島市との関係では、原告の根抵当権は対抗力を有し、かつ仮登記の日時と同被告らの債権の法定納期限との関係からみて、原告の債権が被告国の債権金四万六三五〇円のうちの金二万三一〇〇円及び被告昭島市の債権金六万六八四〇円全額より優先するので、右配当表において被告国に交付すべきものとされた金四万六三五〇円のうちの金二万三一〇〇円、被告昭島市に交付すべきものとされた金六万六八四〇円、被告株式会社中矢組に交付すべきものとされた金四三五万二一九三円、以上合計金四四四万二一三三円につき、原告と被告株式会社中矢組との間において、その各債権額(原告につき金五六〇万〇二〇七円、被告株式会社中矢組につき金一七〇八万八一六二円)に応じて按分して配当されるべきであるのに、競売裁判所が原告より配当要求の申立がないことを理由に、原告に対する配当金を計上しなかつたのは不当である、というのである。

しかしながら、本件不動産のうち(一)、(三)及び(四)の不動産についての原告の根抵当権設定仮登記は、被告株式会社中矢組の仮差押登記の後になされたものであるから、右仮差押の効力がなお存続している間に他の担保権者の申立によつて開始された本件任意競売手続において、右各不動産に関する限り、原告の根抵当権は仮差押債権者に対してのみならず、右競売手続において適法な交付要求の申立をした被告国及び被告昭島市との関係においてもその効力を対抗することができないものと解すべきであり、競売裁判所としては、原告を登記された担保権者としてではなく、一般債権者として取扱わざるを得ず、従つて原告は配当要求の申立をしない限り、右各不動産の売得金につき当然には配当に加わることを得ないものと解するのが相当である。(最高裁昭和三五年七月二七日判決民集一四巻一八九四頁、原審東京高裁昭和三二年五月六日判決)

本件競売事件において原告が配当要求の申立をしたことは、原告の明らかに主張しないところであるから、競売裁判所が配当表の作成に当り、右見解のもとに本件不動産のうち(一)、(三)及び(四)の不動産の売得金につき配当要求のない原告の債権に対する配当金を計上しなかつたことは正当であつて、原告の異議は理由がない。

よつて原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤文彦)

物件目録 <略>

配当表 <略>

債権計算書 <略>

手形目録 <略>

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